遠州弁を集めています 主に昭和の遠州弁で今は死語となってるものもかなりあります
意味使いがふたつに分かれるところであるが
ひとつは「粗悪だ」と言っている。
いまひとつは「おぞましい」と言っている。「おぞましい」を省略した表現で方言ではなく俗語の範疇なのであろうか。ニュアンスとしては「気持ち悪い」というものである。
おぞましいとは辞書によると、嫌な感じがするとかうとましいという意味。
「粗悪」という意味使い。
「おぞい」という言葉は各地域で使われてるのであるがそれぞれに地域(とくに東海)での意味使いが異なっている。ネット辞書によると
甲州弁では「ずるい」
名古屋弁では「みすぼらしい」・「劣悪な」
四日市では「ばからしい」・「おろかしい」・「なさけない」
京ことばでは「ずるい」
鳥取弁では「賢い」
北海道弁では「粗末である」・「使い物になりにくい」・「良くない」・「くたびれている」
とある。
方言としての遠州弁ということでは名古屋弁に近い「粗悪」というこちらの意味使いが方言の範疇であろうと言われている気がする。
「おぞましい」という意味使い。
古語辞典に「おぞし」という言葉が載っていて
「おぞし」(悍し){形容詞ク活用}①気が強い。強情だ。=おずし・おぞまし・おずまし。②ずるい。悪賢い。③恐ろしい。こわい。気味が悪い。とある。
古語の生き残りとするならばこちらが正しそうではある。
先に挙げたネット辞書に記載されている各地の意味使いを一部を除いて「おぞし」は網羅している。
「おぞし」の「し」がい音便化して「おぞい」となったと勘繰られる。屁理屈こねればこういう流れが考えられるが感覚としては先にも述べたがただ単に「おぞましい」のはしょった言い方という方がすっきりくる。
はしょった言い方といえば遠州弁では「おぞい」・「もぞい」・「のそい」などといった言い方をよくする傾向がある。他にも「ちゃらい」・「たるい」・「きもい」・「きしょい」・「うざい」・「もさい」など。これらはほとんどが俗語という部類に入れられているものであり方言とは呼ばれない。が、数撃ちゃ(頻繁ということであれば)それが特徴となるものであろう。
ちなみにこの二通りある意味使い。両方共存しての使い分けをしているのではなくて集落ごとにどちらか一方を使っているという地域差が生じているものであると思える。
わたしらんとこは「おぞましい」の方で、なんとなくな感覚(根拠はないがイメージ)だと三河と隣接してる集落なんかでは「粗悪」という方を使っているみたいである。「粗悪」という意味では「ぼっこい」と言う事がわたしらんとこでは多い。
なので例文に関しては「おぞましい」という意味使いの方を挙げる。
しかしながら並び立たずとてどちらかを否定するという事では決して無い。もしかしたら全く別の言葉がたまたま読みが同じでこんがらがっているということも考えられるし、実際そう使われて不自由ないのは事実として重みがある。
例文
「うわっ、天井に顔が浮き出てるにい!」
「ただのシミ。」
「いやだぁ、風んなまぬるい。」
「換気で窓開けたでねえ。」
(換気の為に窓開けたからなあ。)
「なんかおい、さっきからなんかおぞいだけど。なんかよかないこと起こった虫の知らせかねえ。」
(ねえちょっとぉ。さっきからどうにも気持ち悪いんだけど・・・。これってよくない事が起こった虫の知らせなのかねえ。)
「さっき観た映画のせい。怖がりの癖してホラー映画なんか観るもんでえ。なんでもかんでもやたらくしゃ怖くめえるだあ。」
(さっき観た映画のせいだろ。怖がりの癖にホラー映画なんか観るものだから目に映るもの全てが怖く見えるんだよ。)
「だってしょうがないじゃん。あの人出てただもんで観にゃあファンたあゆえんらあ。」
(しょがないじゃないの。あの人が出演してたんだから観なくちゃファンとはいえないでしょ。)
「全部観んだって別にいいじゃん。全部観にゃあファンたあ呼べんっつうわけでもありもしん。」
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