遠州弁を集めています 主に昭和の遠州弁で今は死語となってるものもかなりあります
「結構」と書く。
どうも共通語と遠州弁とではそのニュアンスが微妙に異なるようなので記載。
例えば「けっこう重いよ」と発した時その重さの程度の受け取り方が異なる場合がある。「十分重いよ」なのか「意外と重いよ」なのかのように。
まずは共通語における意味。昭和の辞書の説明は非常に分かりづらいので、ネット辞書の方での説明を見ると
名詞
①組み立て・構え・構成。「文章の結構を考える」。
②特に善美を尽くして物を作る事。または作られた物。「結構を尽くした邸宅」。
③計画・企て・目論み。
④準備・用意・支度
形容動詞
①素晴らしくて難点がない様。「結構な出来栄え」。
②満足できる状態である様。その状態で十分な様。「お元気そうで結構ですね」。
③それ以上を必要としない様。十分。「もう結構です」。
④気立ての良い様。お人好し。
副詞
十分とは言えないが、ある程度要求に応えている様。「結構おいしい」。
とある。
名詞の「結構」に関しては日常使う事はまずない。従って形容動詞か副詞での使い方に絞って話しを進めることとする。
遠州人としては形容動詞の④及び②の使い方は日常に於いてまずもってしないと思われる。
「思ってた以上に」とか「意外と」という使い方は辞書にはないが遠州ではこういう意味でも使われている。まあこういう意味使いの「けっこう」は遠州に限ったことではなかろうが。
それ以外は使っていてかつそう大きく逸脱した意味使い方をしている訳ではないのだが、ただ使いどころが共通語とはどうも違うらしい。それは特に副詞としての使いどころというものであろうか。形容動詞での褒めた言い回しよりも副詞のまあまあとして使われる事の方が圧倒的に多い傾向にあるということである。
「けっこう頑張ったじゃん」と言った場合。
「結構頑張ったじゃないの」と共通語に訳すのは間違いではない。しかしそのニュアンスが共通語では基準値・予想値を上回ったといった頑張った具合を指す「結構」であろうが
遠州弁では「それなりに頑張ったじゃないの」というニュアンスで「けっこう」が使われるのである。
共通語では形容動詞の②の使い方でお褒めの部類に入る表現であろうが遠州弁においては副詞の使い方であり決して褒めてるという勢いは薄い。
同じように「自分結構頑張ったんだけどなあ」の場合においても。
共通語では最善を尽くしたもしくは力以上のものを発揮したというニュアンスであろうが、遠州弁ではそれなりにもしくは必要以上にというニュアンスと受け取られる。
「けっこういける口なんだろ?」という場合は共通語に於いても「それなりに」という意味使いであろうから独特な意味使いではなかろうが使いどころが共通語と違っているのかもしれない。
遠州人にとっては形容動詞としての「結構」はよそよそしい表現と感じる傾向がある。
それと遠州弁の「けっこう」の使い方としてぼかすというか曖昧に表現したいような場合に使われる事も多い。形容動詞の「結構」ははっきりしたものであるが副詞の「結構」はある程度という曖昧さがあるところを利用しているのであろう。
つまり遠州弁の「けっこう」は「まあまあ」・「それなりに」という意味使いで使われる事が多いということである。特別な意味使いをしている訳ではないのだがどうもニュアンスの取られ方がこちらの意図するものと異なる可能性が高いようだ。
例文
「あとどんくらいで着くよう。」
(後どれくらいで着くんだよ。)
「けっこう歩いたで はあ じきん着くじゃないのけ?」
(大分歩いたからもうじき着くんじゃないのかな。)
「さっきいもそんなことゆってんかった?」
(さっきもそんな事言ってなかったっけ。)
「気のせいだら。」
(気のせいだろ。)
「けっこういい加減だなあやあ。」
(なんか思ってたよりいい加減だなあ。)
「水飲むけえ。」
(水飲むかい。)
「いらんわあ。おめえの口つけたのなんか。」
(結構。君の飲みかけなんざ。)
「けっこう潔癖症だなあやあ。」
(意外と潔癖症なんだな。)
例文音声はこちら
この例文のように「けっこう歩いた」は遠州弁では「それなりに歩いてきたからそろそろいいんじゃない?」というものである。共通語では「十分歩いてきたから着くだろう」というニュアンスになるのだろうか。
「いらんわあ」これを「結構」と訳したように十分とか必要としないと言いたい場合には「けっこう」は使わない傾向にある。「結構」を使っても話しは通じるところであるが「お高くとまって」みたいなえらそうにという意識に陥ることがしばしばある。変と思われるであろうが「結構」というよりも「いらんわあ」という方が角が立たないのである。まあ「いいです」・「いいよ」とかいうのが一番無難なんだろうけど「いらん」・「ことわる」という方が多いのは確かであろう。(正し知り合い同士の場合に限る)