遠州弁を集めています 主に昭和の遠州弁で今は死語となってるものもかなりあります
「持ちに行く」共通語に訳すと「取りに行く」。男女共用の表現。
当たり前すぎて遠州弁とは気づかなんだが、どうも方言らしい。
しかし「取りに行く」は「とりいく」と言うから「もちいく」を「取りに行く」と訳すのはなんかざらつきを感じるんだけど「取ってくる」という訳の方が違和感少ないかなあ。でもやはり「持ちに行く」という言い方自体本当に方言なんだろうか。どうも信じ難いがまあ一応遠州弁として記載。
屁理屈で考えると「持ちに行く」だから「もちいいく」であろうが
実際声に出る時は「もちいく」となる。
例文
「あれえいやだやあ、財布持ってくるの忘れちゃってえ。」
(しまったあ。財布忘れたあ。)
「いいよわし持ち行くで行かんでも。先い行って。」
(戻らんでも俺が取りに戻るから先に行きな。)
「置いてある場所分かるう?」
(どこに忘れて置いたのか分かる?)
「多分タンスんとこだら。入りゃせんつってズボンと格闘してたでえ。そっちんほうに気いいってて忘れかあっただらあ。」
(タンスのとこじゃないの?無理矢理ズボンはくのに神経集中しすぎて財布の事すっかり忘れたんだろ。)
「いらんこんじゃん。」
(余計なお世話でしょ。)
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「ものいわぬ」であれば
「物言わぬ景色なれど何かを壮大に語っているかのようだ」
みたいな感じで格調を感じたりもするが遠州弁では
「あの人物言わんもんで何したいだかよを分からんだよを。」
といった風に格調も情緒も存在しない。
意味は「話さない」・「喋らない」。口が重いというか普段から饒舌ではない様が感じられるところである。そういう意味では「寡黙」という言葉が適切なのかもしれない。
古い日本語をいまだに使っているという事であろうか。「物言わない」とするよりも「物言わぬ」の撥音便化と考えた方がいいような気がする。
例文
「○○さんはどうするって?」
「あの人もの言わんもんでどうするだか分からんよを。」
「困っちゃうねえ。こっちから誘うってのもなんかいやったいしぃ・・・。」
「まあ折見て聞いてみすわあ。」
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「持たずに」と言っている。
「持ち」+「しなし」という言い回しの合体形なんだろうか。古い言い回しでいえば「持つをするなし」とかみたいな。
確かにこんな言い回しするのは遠州くらいなのかもしれないところではあるかもしれない。
例文
「ほいじゃあ行くかね。」
(それじゃあ行こうか。)
「行くってあんたなにい。そのかっこで行くだ?」
(行くって何?その恰好で行くのか?)
「いかんだ?」
(駄目なのかよこれじゃ。)
「別にいかんくはないけど。に、したってなにも持ちなしっつうなあひょうんきんだやあ。泊まり込みだにい?」
(別にいけなくはないけど。それにしたって泊まり込みで何も持たずにっていうのはどうかと思うよ。)
「いいじゃん別にい。」
(ほっといてよ。)
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「もので」。「ものであるから」の略した言い方であろうか。
日常での使用頻度高し。
語尾に付いてこれで発言お終いとなると「だからなんだよ結論は」とつい思ってしまうもったいぶったようななもやもやが残る言い回しであろう。
例えば「あっちゃん行くもんでえ。」といった風に。
これは「あっちゃん行くんだからあなたも行きなさいよ」・「~あなたはどうするの?」とかを略した言い回しなのであるが、そういうルールを知らない人にとっては確かにはっきりしない言い方ではあるな。
「あんたも行きないあっちゃんも行くもんで」
「あっちゃんも行くもんであんたも行きない」
といった順序入れ替えてるという場合もある。
しかし「もんで」の訳を「ものですから」とした場合
「あっちゃん行くのですから」
となると一応言い切っている風に聞こえる。
実際この使い方が多く言ってる側は略してるというよりも言いきっているという意識な事が殆どである。それが遠州弁の法則を知らない人には理解されないところではあるが。
「だもんで」だと「なんだから」・「であるからして」といった意味合いになり歯切れの悪さは解消されるところであるが幾分お仕着せな印象を与えるので相手の意思を尊重する場合には「もんで」を使う傾向にある。
なので相手に「どうする?」と判断を任せる(問う)場合には「もんで」を使い自分の意思(意見)を発する場合には「だもんで」を使うという棲み分けが存在しているということである。どちらも命令口調ではない。
例文
「どうするよをあんた。わし今から行くもんで。」
(どうする?今から行くんだけど一緒に行くかい?)
「う~んまあ、わし遠慮しとくわ。」
「そうけえ。じゃいいだね?」
「う~んそうきっぱりゆわれるとなあ。」
「どっちよを。はっきりしてやあ。」
「どうしっかな。」
「はあいい。わし行くでねえ。」
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ちなみに私は知らない言葉
私的に、長い事遠州人やってるが聞いたことが無い遠州弁。
「もさる」って何だ?全く以て意味が分からない。
使い方は例を挙げれば「本もさってきたにい。」だそうな。
ネットで調べてみたら「盗む」という説明されてあった。殆どの遠州弁を紹介するサイトに載っていたので私が無知というだけのようである。
それはともかく、訳すと「本を盗んできたよう。」ということになるのか。
じゃあこの使い方例の場合自分なら普段どういう言い方してるのかというと
「本かっさらってきたにい。」か「本かっぱらってきたにい。」
と発する。まあ「盗む」というのではなく「拝借」・「頂戴」というおちゃらけたニュアンスであるが。
大体が「盗む」なんておおっぴらに人に言うものじゃないのだから日常で使われる言葉ではないよな。(知らないからといって私が善良だということではない。)
「盗む」というニュアンスが言葉そのものの「かすめる」といった悪意のあるものだけを指すのか、「人目を盗む」とかいった「こっそり」とかいったものをも指すのか、いたずらやおふざけといった悪意の無いものも含まれるのか。そこいら辺がよく分からないところである。
「あいつ、あれ、もさってきただにい。」
と発したら、うまい事やりやがってといった「やっかみ」が含まれるのか、どうにかしなければというか突き出さなければ(告発しなければ)いけないと思ってるのか、内心羨ましいと思ってるのかその事について特に何も感情はないのかなどという機微が分からない。
なので「ねえ、どう思う?」なんて訊かれたら答えに窮すよな。
相手が冗談のつもりでもまともに受け取って「それはよくない。なんとかしんと。」なんて言えば「堅い奴だ。」と煙たがれるだろうし、逆に「羨ましいよ。」とか言って相手がマジだったら「おめえはなんて悪い奴なんだ。」と引かれるだろうし。
それにつけても遠州弁の奥の深さよのえ。