遠州弁を集めています 主に昭和の遠州弁で今は死語となってるものもかなりあります
「させないからいいよ」という意味。
「やらせないからいいよ」だと「やらしゃへんでええよ」もしくは「やらさしゃへんでええよ」となる。
当然させるさせないといった上目目線からの発言ということになるが、多少無礼講の仲間内とかでも使われる表現であって、させられるほうは言われても左程ムッとこない表現ではある。
こういわれた場合の返し言葉は「随分じゃん」が多く使われる傾向にある。
例文
A「あれえ忘れ物しちゃってえ。ちゃっと持ち行って来るで先いかせんでよを。」
(忘れ物しちゃった。直ぐ取ってくるから先に行かせないでよ。)
B「おお、まかしょ。首ん縄つけてでも行かさしゃへんでええよ、行ってきない。」
(うんまかせな。首に縄つけてでも行かせないから心配しないで行ってきな。)
C「早くしんと始まっちゃうじゃん。いい席取りたいだで先行くかあ。」
(早くしないと始まっちゃう。いい席取りたいんだから先に行こうよ。)
B「みんなでいかにゃかんの。おんしゃすぐはぐれて迷子んなるだで。」
(みんなで行かなきゃダメなの。お前は直ぐはぐれて迷子になるんだから。)
C「先行くかあ。場所とってから入り口で待ちゃいいじゃん。」
(先に行こうよ。場所取りしてから入り口で待ち合わせすればいいじゃん。)
A「はやったって駄目だにい。こないだみたくこっち迷子探しっぱなしで結局なにせいいっただかわからんくなるのいやだでねえ。はあ勝手なことさしゃへんでねえ。」
(気が急いても駄目。この間みたいに迷子になったの探しっぱなしで結局見れなくてなにしに行ったのか分からなくなるのは御免だからねえ。もう勝手なことさせないよ。)
B「そうだよなあ。こないだあ結局こいつだけ見ただでこんだあこっち見る番だで。いっそおいてっか?」
(そうだったなあ。この間は結局こいつだけ見てたんだから今度はこっちが見る番だよな。いっそのことこいつ置いて二人で行こうか?)
C「・・・早くしてやあ。」
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「世話が無い」が訛った表現。基本男女共用言葉であるが女性の場合は「世話んいらん」を使うこともある。
共通語の意味は、「いい気なもんだ」というニュアンス。(古い国語辞典での意)
遠州弁の場合もほぼ同じニュアンスで使われるが、「苦労しない」というニュアンスがよく使われる。
「世話ない」という言い方もよく使われ、「どうしようもない」・「救いようがない」・「あきれる」などというニュアンスで使われる。
ネットでの辞書での意味は
「世話がない」①手数がかからない。②呆れ果ててどうしようもない。とある。
遠州弁の「せわない」が現在の共通語の「世話がない」の意味使いと同じである。
「せわんない」とは別物のようになりつつあるところである。
「お金貰ったら態度ころっと変わるだで世話ないよね。」
(お金を貰ったらコロッと態度が変わるんだから呆れ果てるよね。)
「お金貰って態度んころっと変わるならせわんない。」
(お金貰ったらコロッと態度が変わるんなら苦労しないって。)
という使い分けが成立するように「世話ない」という表現が共通語と同じように昔と変化しつつあり「せわんない」は昔のまま変わってないのかもしれない。
例文
A「さんざっぱら やっちゃかん っつっただに また やらかしてる だで はあ せわんねえわ。」
(あれだけやるなって言ったのに又やらかすんだからもうどうしようもないわ。)
B「なによを。なにしたでえ。」
(どうしたのなんかあったの?)
A「聞いてやあ。黄いないの点く前に赤いぼっち押しちゃかんっつってるだに、何度ゆっても点く前に押しくさるだよ。だで見て。この不良品の山。」
(聞いてくれよ。黄色が点灯する前に赤のボタン押すなって言ってるのに、何度言っても点灯する前に押しやがる。だから見てよこの不良品の山。)
B「なんでそんなことするよを。」
C「だって押すなっつわれると押したあなるじゃん。」
(だって押すなって言われたら押したくなるじゃん。)
B「じゃ、押せ。心置きなく押せ。そんかわし全部自分買取りな。そうしまい。」
(なら押せ。存分に押せ。そのかわり全部自分で買い取れよ。いいな。)
共通語にすると「ああ言えばこう言うんだから」ということになる。
つまりなにかと理屈をこねてうまくはぐらかす・自説を曲げない様をいう。
こういうことは昔なら軽い悪口なのだが、最近はディベートなる技が輸入され、言い負かした方が正義という風潮に変わりつつある。クレーマーとかいう人種の必需技術であろう。
遠州弁での使い方は未だに褒め言葉としては使われておらずあくまでしょうがない奴だと匙を投げる意味で使われることが多い。基本的にこう言われる奴はしょうがない奴という評価になることが多く評価は低い。
「ああゆやあこうゆうだで」の後に「ホントしょんない」がつく事が多い。
例文
「頼んだのやっといてくれた?」
(頼んどいた事やってくれた?)
「さぶいで明日せすと思ってるだあれ。」
(寒いから明日にしようかと思ってるんだけど。)
「明日もさぶいとどうするよを。」
(明日も寒かったらどうするの?)
「なんしょ今日はさぶいで無理。」
(とにかく今日は寒いから無理。)
「要はやりたあないっつうこんだね。」
(つまりやりたくないって事ね。)
「ふんだだこたねえわ。今日はでけんっつてるだけじゃん。」
(そんなことないよ。今日は出来ないって言ってるだけじゃないか。)
「きんのうあんたなんつった?」
(昨日なんて言ってた?)
「きんのうは忘れかあってたっつったじゃん。」
(昨日は忘れ返ってたって言ったじゃないか。)
「で、明日必ずやるっつわんかったっけ?」
(だから明日必ずやるよって言わなかった?)
「そんだだこんこいたってさぶいだでしょんないじゃん。風邪ひいたらどうしてくれるよを。」
(そんな事言ったって寒いんだからしょうがないだろ。風邪でも引いたらどうしてくれるんだ。)
「ほんとも~。ああゆやこうゆうだで。」
(も~!ああ言えばこう言うんだから。)
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直訳すれば「そう言わないからだよ」。
ニュアンスとしては「きちんと説明しないからこういうことになるんだからあんたが悪い」ということである。つまり私は悪くないあんたが悪いと正当性を主張しているという表現。ただし強く主張してる訳ではない。どちらかというとかわす感じ。強い(対峙する)場合は「しいらんやあ」が使われることが多い。
例文
「ここにあった○○知らん?」
「物置んかたいた。」
(物置にしまったよ。)
「なんでえ。随分じゃん。」
(え~どうして?随分じゃない。)
「そをゆわんもんでえ。」
(ちゃんと言わないからでしょ。)
「ゆったじゃんかあ。」
(言ったじゃないの。)
「しいらんやあ。いつゆったよを。」
(聞いてないよぉ。何時言った?)
「いらんくないで捨てちゃかんって。」
(使うんだから捨てないでよって。)
「だでうっちゃらんと物置入れたじゃんか。」
(だから捨てずに物置に入れたんじゃないの。)
直訳すれば、なんだよそれ。
ニュアンス的にはその話に食いついたという意思表示みたいなものであろうか。
「詳しく聞かせろ」という意味として訳した方が判り易いか。
共通語的なそれは何?という質問の意味の場合は遠州弁だと「それなによお」・「なんでえそれ」とかになる。
「なんだよそれ気味悪い。」とかいう表現の場合遠州弁だと「なにいそれえ気味ん悪いい。」もしくは「なにそれ気味悪い」(なにい・それえという風に伸びずに言い切る)と言った風になることが多い。もちろん「なによをそれ気色悪い。」という使い方もするので「食いついた」意思表示専用の表現ではない。
この表現における味噌は「よを」ということになる。
例文
「やあ。うちんとこの部長が食堂であだけてるってや。」
(ねえねえ。うちのとこの部長が食堂でわめいてるってさ。)
「なによをそれ。」
(なにがあったんだ?)
「よくは知らんが食券買っただけえが売り切れでごめんなさいだに、それんなんか知らんが気に入らんかったらしくてサービス悪いとかこいて頭きたで絶対出せって無理ゆってるだって。食堂のおばちゃんも相手ん部長さまだもんでおうじょうこいてるらしいよ。」
(詳しくは知らないんだけど。食券買ったけど売り切れだったんだって。それがどういう訳か気に障ったらしくてサービス悪いとかいってわめきちらして出すまで納得しないって言ってるんだって。おばちゃんも相手が部長さまだから困り果ててるらしい。)
「まさしく部長の食券乱用ってとこか。」
「あんまりうまかねえなあ。」
「なにい、元々美味くありもしんにあそこ。だで丁度ええだって。」
(え~?元々あそこ美味くないんだからこれくらいの洒落くらいで丁度いいだろ。)
「・・・はあええ。」
(・・・もういいよ。)