遠州弁を集めています 主に昭和の遠州弁で今は死語となってるものもかなりあります
以前書いた「おいでる」(いらっしゃる・おいでになられる)というのが丁寧な言葉で、この「いるかいねえ」は(いる?おる?)といった横並びの関係性を表わす。
奥さん同士は毎日顔合わせていても「おいでる」を使うのがひとつの礼儀となっているが、たまあに「いるかいねえ」を使う人がいてそう言う人は随分と馴れ馴れしい人と思われるらしい。
普通は親戚とか親しい友人とかに使う。隣近所とかの知人顔見知り程度の関係性の人にはあまり使い勝手がいい言葉使いではない。
野郎言葉だと「いるけえ」・「おるか」・「おるう」・「いるう」。「おいでる」に対応するのは「おらるるう」あたりであろうか。
例文1
「やあ。これ余ったんで誰か欲しい人いるかいねえ。」
「じゃわしもらわすかねえ。」
「悪いね。まあ荷物になるけど持ってってやあ。」
「おおまかしょ。」
「ほんとにぃ。そうしてくれると助かるやあ。」
例文2
「お母ちゃんいるかいねえ。」
「いんよ。」
「どこいっただかいねえ。知ってる?」
「おじちゃん家に届けもんせるっつってたにい。」
「あれ。ほいじゃ行き違いかあ。やいやい。」
例文音声はこちら
「おいでる」・「いるかいねえ」だといると思ってやって来た感じであるが、「おるだかいねえ」・「いるだかいねえ」はいないかもしれないと思ってる感じになる。
省略形で「おるだ?」・「いるだ?」という表現もある。
多分いないだろうけど・はっきりしないけどという様な場合は「おらんだか」・「いんだか」が使われる。
例文
「今日は猫おるだ?」
「あ、どうだかいねえ。いるとしたら縁側んとこだけど。見てこすか。」
「ええよ別に見いいかんでも。どうしても見たいってこんじゃないだで。」
注、「見てこすか」は(見てこようか)という訳になる。
例文音声はこちら
「ほかす」の記事で述べた意味の日常での実用編。結構頻繁に使う。
直訳すれば、放置しておけばいい。だがこの解釈だと微妙に違う。今やってること(やろうとしてること)はとりあえず後回しにして別のことをして欲しいときとかに使われる表現が「ほかいときゃええだ」である。「ほっときゃいいだ」もほぼ同様に使われる。が、手を出すな、つまりまだ手をつけていない状態でいう場合が多いので、多少の意味合いの違いはある。
変形というか似たような表現では「うっちゃっときゃいいだ」がある。こういう場合の「ほかす」には後回しにするニュアンスであり、「うっちゃる」だと文字通り捨てる・しないとかいうTHE END 的なニュアンスになる違いがある。
作業や仕事で使うような場合、「ほかいときゃええだ」は優先順位を下げろと言う意味で、「うっちゃっときゃいいだ」には誰か他の者がやるだろうからという意味合いで使われることが多い。
尚、「いいだ」と「ええだ」は使い道に差はなく言う人の好みの問題なので、どちらでも構わない。
共通語的に「後にしろ・後回しにしろ」という言い方だとストレート過ぎてきつい言い方と遠州人には判断される。
例文
「やあ、荷物きただで、搬入手伝えやあ。」
(おい。荷物到着したから搬入手伝え。)
「だってわしやりかけで手えはなせんよお。」
(いやしかし、私の仕事やりかけで手が離せないんですけど。)
「そんなのほかいときゃいいだ。先んいごかしとかんと他んの身動きとれんくなるだでえ。」
(そんなの後回しにしろ。先に移動させとかないと他の物が動かせなくなるんだから。)
例文音声はこちら
ちなみにこの例文で「ほかいときゃいいだ」ではなく「うっちゃっときゃいいだ」としてしまうと「どうでもいい仕事」とかに受け取られるので禍根を残すものとなってしまう。
又そう言う事を言う。特に方言ではないがよく使われる言い回しである。下記の使い方が全国共通かどうかは知らない。
「また」と「まあた」の二種類あるが「また」を使う方がムッとした感が強まる気がする。
使われ方としては
①来なきゃよかったとかこんなことならとか、ぐちぐちどうしようもないとかもう後の祭り的な発言をされた時の返し言葉という使い方。
このあとに「なんでそんなことゆうよお。」がつくことが多い。こういう場合は今更なにをいってるんだという感情がこもる。勿論根性なし・優柔不断をなじる意味も含む。
②冷やかしとか厭味とか皮肉とかを言われた時などにそんなこといわないでよと返す時の言葉。
①の例文
「こんなこんならこにゃあよかった。」
(こんなことなら来なければよかった。)
「またそおゆうことゆう。あんたいっつも少しでもつまらんくなるとぶちぶちゆうで厭だやあ。」
(嫌になるなあ。ちょっとでもつまらなくなるとゴネ始めるんだから。嫌いだよ。)
②の例文
「お!今日はどうしたでえエライ早いご出勤じゃんか。」
「まあたそおうゆうことゆう。勘弁してやあ。」
(いやいやいや冷やかさないでくださいよ。)
と、遅刻してる事への皮肉になる。
頭がいいじゃないの。要はいいこと思いついたねと言う意味。共通語だと「なるほど」と同じ意味合い。単純に感心したときに発せられる表現であって、小馬鹿にしてる訳ではないので、そういわれてムッとしてはいけない。
例文
「どうせっかなあ。」
(どうしたらいいんだろう。)
「そんなの○○すりゃあええじゃん。」
(それなら○○すればいいんじゃないの。)
「おお!おめえあたまあいいじゃん。」
(おおそうだ!なるほどいいこと言うね。)
「こばかにすんじゃねえよ。こんくらいちっと頭使やあ誰だって思いつくらあ。」
(照れるじゃないか。これぐらい頭が冷静だったら気がつくことだよ。)
「こばかにすんじゃねえよ」と言ってはいるが顔はそうでもなく褒められて(感心されて)にやけて笑ってるのが普通。あまり人を褒めない部族のせいか「頭いいじゃん」は上級の褒め言葉として使われることが多い。冷やかしとか皮肉厭味で使うことはほとんどない。冷やかし等の場合は
「あたまいいだの」(頭いいんだね)・「あたまいいだか知らんが」(頭いいのかもしれないが)
などが使われる。
例文音声はこちら