遠州弁を集めています 主に昭和の遠州弁で今は死語となってるものもかなりあります
ただ事ではないねと言う意味。直訳すれば(穏やかじゃないね)となる。別に特に変わった言い回しではないのだが、相槌打つ時に良く使われる表現なので憶えといて損はない。得もないけど。
まあ、広い範囲での遠州弁ということではなくうちらの集落での言い草であろうが。
精神というか心持ちが穏やかじゃないねというニュアンスもあるので、特にとんでもない出来事に遭遇したとか一触即発の状態ということでなくても使う。
例文
「聞いた?○○の奴。馬鹿どんじかられたっつう話しい。」
(聞いた?○○の奴。物凄い怒られたっていう話しだよ。)
「なによを。聞いちゃいんにい。誰にい。」
(何それ?聞いてないよ。誰にだよ。)
「あいつんさあ。客から頼まんさったもん忘れかあってほっぽらかいとっただって。ふんで客からどうなっただあっつわれて思い出いただけどはあうっちゃっちゃってて物んなくいちゃってただよ。」
(あいつさあ。お客から頼まれてた物忘れかえって放置してたんだって。それでお客からどうなった?って言われて思い出したんだけどもう捨てていて物を失くしちゃったんだって。)
「そりゃあ穏やかじゃねえのっ。で、どうなったよを。」
(そりゃ大事だねえ。それでどうなったの?)
「どうにもならすかあ。えらいさんと行ってひたすら頭下げたっつう話しは聞いちゃいるけどその後どうなったかは知らんだあ。」
(どうにもならないだろ。偉いさんと行ってひたすら頭下げたっていう話しは聞いてるけどその後どうなったかまでは分からない。)
「ほいじゃあ両方からどんじかられただあ。」
(それじゃあ両方からきつく怒られたのか。)
「みたいだよ。」
「弁償かあ。首にゃあならんだ?」
(弁償になるんだろうなあ。首にはならないんだろ?)
「知らんだあ。今言えるのはあいつの机に本人おらんくてクマさん座ってるだけでえ。」
(分かんない。今確かなのはあいつの机に本人が居なくてクマのぬいぐるみが座ってるって事。)
「それも穏やかじゃねえのっ。クマなだけにプーさん確定ってか。」
(それも随分だなあ。クマなだけにプーさんになるってか。)
遠州人がよく使う表現。
「聞いてないよ。誰がそんなこと言ってるんだ」みたいなことを言っている。非常に強気であることが窺える。
「しいらんやあ」の代わりに「知らんにい」とかを使うと否定のニュアンスが強くなるが「しいらんやあ」だと「何言ってるんだ」という憤慨のニュアンスか、すっとぼけとか自分には関係ないとかいった他人事みたいなそっけないニュアンスが強くなる。
なので「しいらんやあ」だと言われた方は「冷たいじゃん」と思うか「嘘こいてんじゃねえぞ」と思うかどっちかが多い。
より冷たく突き放す感じにする場合は「しらんよを・・・」・「しらんでねえ・・・」とすると相手は困るか怒り出すかどちらかになることが多い。
例文1
「ここにあったのどこやったか知らん?あんたあ持ってったって誰かゆってただけど。」
(ここにあったのどこいったのか知らない?あんたが持ってったって誰かが言ってたけど。)
「しいらんやあ。誰ん言ったよそんなの。」
(え~そんなことないよ。誰かと勘違いしてるんじゃないの。)
「あれえ聞き違いだか?ホントに知らんだ?」
(あれ?聞き違えなの?本当に知らない?)
例文2
「ここにあったのどこやったか知らん?あんたあ持ってったって誰かゆってただけど。」
「知らんにい。誰ん言ったよをそんなの。」
(私じゃないよ。そりゃ間違いだよ。)
「あそお?おかしいやあ。ほいじゃ誰ん持ってっただいねえ。」
(そうなの?変だなあじゃあ誰が持ってったんだろ。)
例文3
「ここにあったのどこやったか知らん?あんたあ持ってったって誰かゆってただけど。」
「しらんよを。誰んゆったよそんなの。」
(知らないよ。どいつがそんなこと言ってるんだ。)
「あんたじゃないだ?変だやあ。」
(あんたじゃないの?変だなあ。)
「どうしようもない」という意味。「どうしようもないやっちゃあいつは。」とかいう意味の「どうしようもない」。「どうにもしようがない」(打つ手が無い)という使い方もするが大抵は「あの馬鹿野郎は」という意味使いの方が多く使われる。
「しょんない」だけだと「しょうがない」という諦めのニュアンスが強くなるが「ホントしょんない」だと呆れてるというニュアンスが強くなる。
例文
A「懲りもしんでまた行っちゃったよ。」
B「あんだけ痛い目にあってるだにか?ホントしょんないなや。」
C「なによを。どうしたでえ。なんの話し?」
B「○○の話し。あいつきんのうけちょんけちょんにやられた癖にまあた今日も懲りんと行きくさっただって。」
C「行ったってどこええ。」
B「集会所。将棋の。」
C「なんでまたそんなじじむさいとこなんか行くでえ。大体があいつ将棋なんかやってたっけか。」
A「将棋はどうだっていいだよを。そんこんさあで手伝ってるおねえちゃんにちょっかいだし行ったでえ。」
B「きんのうはっきし嫌われたっつうだに懲りもしんとまた今日も行きくさってるだって。」
C「そりゃあホントしょんないのっ。」
B「だらあ。そう思うらあ。」
C「おっかさに知れたらただじゃ済まんらあ。」
A「つうか病気だらあ、ありゃ。」
言葉の意味に説明は不要と思われるが、遠州では普段よく使われる表現ということで記載。
最悪なことにはならないよと言ってる。
特に命の危険があるような事に限らず、びびりこいてる(躊躇してる)奴に向かって「いいからやれよ」とか「早くやれよ」と背中を押すような時とかで使われている。「死ぬ」という表現には「失敗する」とか「怒られる」とかいう意味を持たせているということである。
ただし必ずしも絶対大丈夫と言い切れ無い事でもこう言ってやらせようとする時もあるし失敗しても怒られないと約束されてる訳でもないので鵜呑みに信用してはならない。「大丈夫だよ」とか「心配しなくてもいいよ」とかいう表現とは違う他人事だと思っていい加減なこと言うな的表現であることが多い。
「死にゃせんでいいよ」と「死にゃあせんでいいよ」という言い方が存在するがあまり意味的には大差ないように思われる。
例文
「これ、なんか正味期限やばいんだけど。」
「死にゃあせんでいいよ。ちっとばか切れてたって便所近くなるだけだで。」
「ひょんきんじゃん。他に喰うもんないだけえ。」
「ほいじゃ正露丸つけるでこれで大丈夫だら。」
「お~い勘弁してやあ。」
例文音声はこちら
「よくはしらんが」詳しくは・細かいことは知らないけれどという意味。まあ共通語では「よくしらないけれど」という表現に「は」が入っただけのことではあるが。なんか遠州弁っぽいよなと思って記載。
聞いた話しだけどとか聞くところによるとみたいないまいち根拠に自信がない話しをする時の枕詞みたいな使いかたもあろうて。他の言い方では「よくはしらんだあ」というのもある。もっと崩すと「よかあしらんだあ」。
ところで、この場合で使われる「よく」は漢字にするとどうなるか。
ようく聞け・よくぞ申したとかの使い方と同じなのかしらむ。それとも別個か。
能く・好く・良く・善く・佳く
勿論答えはよくは知らんだあケースバイケースなんだろうなきっと。
例文
「こかあどをやって開けて入るよを。」
(ここはどうやって開けて入るんだ?)
「よくは知らんだあ管理人さんに開けて貰わにゃ入れんらしい。」
(聞いた話しだけど多分管理人さんに開けて貰わないと入れないらしい。)
「で、その管理人さんってどこにいるよを。」
「それは知らんだあ。」
「駄目じゃん。」