遠州弁を集めています 主に昭和の遠州弁で今は死語となってるものもかなりあります
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多分漢字で書くと「破れた」であろう。
ニュアンス的には「傷む」(いたむ)とか「綻ぶ」(ほころぶ)とかいう感じであろうか。壊れてはいない(使い物にならない)程度ではない「いたみ」みたいな。
辞書では「やれ」(破れ)として載っているので方言ということではないであろうが使用頻度が全国的には職業的専門用語化もしくは一般的には死語寄りではあるが遠州では普段の生活の表現の中で生き残ってるということであろうか。
ただし、辞書での意味は①やぶれ(ること)。やぶれた・所(程度)。②{俗語}刷りそこなったりして、だめになった印刷物。刷りやれ。 とあり、遠州で使われてる意味使いとは異なる。
遠州弁的使い方としては、物全般に対して使うものであり、共通語のニュアンスから外れて「やつれた」と混同されたニュアンスで使われることも多いので傷むほころぶという感じばかりでなく使い古しとか元気がないとか年期が入ってるとかいう印象を感じさせる表現でもある。
使い込んでへたった感じという勢いもある。なので、「よれた」の変形とかんがえられなくもないか。
荒んだ(すさんだ)とかしょぼくれたイメージは薄い。なので「しけた面」みたく「やれた面」とかいう言い方はしない。
「あんた服んすそやれてるにい」(あんた服のすそがほころんでるよ)とかいう使い方が普通ではあろうか。イメージとしては引っ掛けたとかで傷めた感じ(こういう場合はやんぶれたを使うことが多い)よりも使い込んだ末に傷んだ感じに聞こえる。
イントネーションは遠州では「やれた」と「や」を強く言う。
例文
「さっきいあんたんとこに人来たにい。」
「誰?」
「知らん人。名前聞いたけど又来るっつって教えてくれなんだ。」
「ふ~ん。どんな感じの人?」
「なんか後姿がやれた感じかいやあ。」
(なんかね。後姿に哀愁が漂ってた感じかなあ。)
「服が?」
「いんや雰囲気が。」
「なに?疲れかあってた?」
(え?疲れ果ててた?)
「みたいな感じしたやあ。」
(そんな感じがしたなあ。)
「じゃあ○○さんだあ。電話してみっかな。」
例文音声はこちら
柔らかいと言う意味。
以前「やあこい」という記事を書いたのだが意味はほぼ同じで言い方の違いだけじゃないのかという事もありうるのだがなんとなくニュアンスが異なるので別記事で記載。
「やわ」には「柔」・「軟」・「和(らぐ)」という漢字が使われそれぞれ意味が異なる。
そして使い方としては共通語だと「やわな奴」とかいう軟弱的意味の使い方が普通であろう。
しかし個人的印象としての遠州弁ではむしろ「やあこい」の方が軟弱な印象を受ける。そして「やわこい」には「和こい」的な感じに受け取れる。したがって期待に反して柔らかい場合には「やあこい」を歓迎的な思ってた以上に柔らかい場合には「やわこい」といった使い分けをしているように思われる。あくまで個人的見解であるが。
ちなみに「やわかい」・「やあかい」という言い方がありうるが「やわかい」という言い方はしないように思われあまり聞いた事がない。
例文1(やあこいの使い方例)
「だいぶ道んじゅるくなってるけど長靴にせるだ?貸しちゃるにい。」
(大分道がぬかるんで来てるから長靴履いてく?貸したげるよ。)
「そうしたいとこだけえが、後ん気張ったとこ寄らにゃかんもんでえ。」
(そうしたいのはやまやまなんだけどこの後きちんとしたとこに出なくちゃいけないからいいや。)
「ふんだだこんこいたってはあ下がんこにやあこくなってるだでそれじゃこきたなくなってかえって入れんくなるらあ。」
(そんな事言ったってもう足元物凄く柔らかくなってるんだからその靴のままだと汚れてかえって入りづらくなるんじゃないの?)
例文2(やわこいの使い方例)
「やあなんか腹ん減ったでなんかない?」
(ねえお腹空いたなんかない?)
「晩餉のご飯の残りならあるけど、はあ飯んこわくなってるかも。」
(夕食のご飯の残りならあるけどもうご飯硬くなってるかも。)
「茶漬けで喰やあやわこくなるらあ。」
(お茶漬けにして食べれば柔らかくなるだろ。)
例文音声はこちら
「破く」という意味。「ん」が混ざっただけのお話しで意味的に特にどうということはないが。
「デブ」を「でんぶう」・「甘い」を「あんまい」・「うまい」を「うんまい」とかいう癖のようなものである。さすがに「たまり醤油」を「たんまり醤油」とかは言わないが。
遠州独特かは定かではない。
例文
「聞いてる?大事なもんだで、あっちの部屋入ってって やんぶいたり したら承知しんでねえ。判ったぁ?」
(ちゃんと聞いてよ。大事なものなんだからあっちの部屋に入り込んで破いたりなんかしたら許さないからね。分かった?)
「猫にゆったって判るわきゃあねえらあ。」
(そんなこと猫に言いきかせても無理だろ。)
「あんたあにいってるだよ。要はこっちの部屋に入れるじゃないっつってんの。」
(あんたに言ってるの。とにかくこっちの部屋には入れるなって。)
「わしそんなこんしもせんにい。猫ん勝手で行くだでねえ。」
(おれはそんなことしないよ。猫が勝手に行くんだからおれのせいじゃない。)
「なにゆってるよを。開いてるもんで入るじゃん。そこらじゅう開けたら開けっ放しにせすもんでやっきりこくだよ。開けたら締めよっつってんの。」
(いい訳するんじゃないの。開いてるから入れるんでしょ。そこいらじゅう開けたら開けっ放しにするから怒れるの。開けたら締めなさいって言ってるの。)
例文音声はこちら
なんか遠州弁の代名詞みたいな扱いになってる言葉。全国的に紹介されてるのは躊躇するならまずやってみようみたいなぶつくさ言わずにとにかくやろうよといったニュアンスの言葉として紹介されているものであるが、地元民が実際に使ってるニュアンスとしてはオレもやるからお前もやれよという時に使われる言葉。ニュアンスで訳せば「お~いやるよー」ってな感じか。
ではその他はどうかというと(あくまで一例)
シンプルにやるよ・始めるよという時には
「やらまい」・「やるにい」・「やらざあ」(ただし駿河ではニュアンスが異なる)
お前に替わってオレがやるという時には
「やらしょ」(やらせろ)・「やらしょやあ」(やらせてくれ)
オレはやらんけどお前やれという時には
「やりない」(やんなよ)・「まかいた」(任せた)・「やりい」(やれよ)
お前やってくれないかという時には
「やらんかねえ」(やらないかなあ)・「やらんだかねえ」(やらないのかねえ)・「頼まれてくれんかねえ」(頼みがあるんだけど)・「あのやあ」(言いにくいんだけど)
おねだり調の時には
「やらまいやあ」(やろうよう)・「やらまいにい」・「やるかあ」
「やらまい」と「やらまいか」の違いは微妙で殆ど使い方に違いがある訳ではないが「か」を足した分「やるぞ」と「やろうよ」といった言い方みたいな差が生じる感じである。
「やらまい」と言われると「嫌だよ」と言い返せるが「やらまいか」と言われて「嫌だよ」というのは若干気が引けるのは確かであろう。だからといって、「やらまいか」といわれて「NO」とは言えない訳では決してない。
例文1
「やあおめえ、荷物の搬入がんこ遅かったじゃんかあ。こんなじゃ今日中に終わらんでえ。」
(お~い。荷物の搬入がえらく遅かったじゃないか。こんな状況じゃあ今日中になんか終わらないぞ。)
「まあ、そをゆわすとを。やらにゃ始まらんだでなんしょやらまいかあ。」
(まあまあそんな事言わないで。とにかく始めないとどうしようもないんだからやろうよ。)
この例文のように具体的な解決策が見出せない場合とかにとりあえず始めようというある種の根性論を説くといった使い方をすることがある。
例文2
「おーいそろそろ時間だでやらまい。」
(おーいそろそろ時間になるからやるぞう。)
「なにょこくだあ。そろそろってまだ時間前じゃんかあ。」
(なに言ってんだ。そろそろってまだ時間前じゃないかあ。)
「んなことゆわすとを、ちゃちゃっとやってちゃっちゃと終わらまいかあ。そうすりゃあ早く戻れるにい。」
(そんな事言わないでさあ。パパッとやってさっさと終わらせようよ。そうすれば早く戻れるんだから。)
「しょんねえなや。ちゃっと戻っていいことあるだあ。」
(しょうがないなあ。ところで早く戻っていいことがあるのか?)
「いやまだ他にも仕事あるでやあ。」
(いや。まだ他にも仕事があるからさ。)
「なら休ましょうやあ。ばかっつら。」
(それなら休ませろよ。この野郎。)
ここでは「やらまい」を使ったので反論された。もし「やらまいか」を使っていたら「どうして?」というとこに飛ぶ会話となる。
例文音声はこちら
共通語の「まい」という表現の使い方だと
「二度とやるまいと誓う」みたいな意思の表れであり、辞書によると「何かをしないという主体の意思を表わす・そうではないと推量想像することを表わす」といった打消しの表現だそうな。これと遠州弁の「まい」は異なる。
遠州弁での「まい」は打消しではなくシンプルに意思の表れという使い方で、むしろ古語辞典に記載されている「まいか」まいに終助詞「か」のついたもの。意味は「婉曲に希望し、勧誘する意を表わす・強く命令する意を表わす」と記載されており、ニュアンスが近いので多分古語の生き残りであろう可能性が高い気がする「やらまいか」という言葉である。
それでいて「やるまいか」なると「やらないぞ」という言い方になるのはご愛嬌。もっともこんな言い方普段する人はいないが。
「おいっ!」と言ってる訳だが、実のところ現在は普段生活していて聞く機会は少ない。遠州人は頻繁に発するものだというのは誤解であろう。
だからといって皆無ということではなく職種によって例えば「でえく」さんとか「漁師」さんとかは使うみたいだが、普通に会社勤めしてる範囲とかにおいては「やあ」を使うことの方が多いであろう。
そんなこんなで地元衆でもかくのたまわれると喧嘩腰に聞こえることが多い。まあ他県の衆らから見れば「やい」も「やあ」もそんな大して違わないぞと言われるかもしれないが。
言ってる方は怒ってるわけでなくただ単に「ちょっと」と言ってるつもりなのだろうが聞き慣れていなければ真意は伝わらない表現であろう。基本男言葉で女性の場合は「ほい」・「あんたあ」とかを使うのであろうか。
女性が「やい」を使えばこれは相当怒ってるということになる。
例文
「やい、しょろしょろしてんでねこん積んで上げろやあ。」
「猫近くにいんけど。」
「やいばっかっつら。はあいいわあ。」
暫し沈黙の後
「やい、なぐりくりょ」
「ええのけえ。じゃあ いくにい」
「やあ、おんしゃなにしくさるだあ いきなし人の頭はたいてえ。」
「だって殴れっつったじゃん。」
「てめえコントしいきただか大工やりいきただかはっきしせよやあ。」
注、「ねこ」とは作業用一輪車、「なぐり」とは金槌のこと。
例文音声はこちら
「やい」と呼びかける言い回しは「やあ」とともに遠州弁っぽいと言われたりするものだが
「やいやい耳の穴かっぽじってよおく聞け」
「やいこの唐変木おとといきやがれってんだ」
みたいな江戸前で使われる方が有名なのではなかろうか。江戸っ子の気風を表わすような言い回しとして時代劇でも御馴染みで気風がいいとかいなせだとか誉めそやされるであろうに、それがなんで遠州弁で「やい」というと粗暴と受け取られるんだろうと思わないでもない。
まあ口は悪いが人情には厚いというのが江戸っ子ということなのだから決して江戸っ子ならOKで遠州弁は駄目ということではないのであろうが。
ちなみに例に挙げたような江戸っ子風味の「やいやい」という言い方は遠州ではまずもって使うことはない。遠州弁の「やいやい」は「やれやれ」という別の意味使いで存在するので使わないのである。